4 永遠の恋人

namon

2010年11月30日 13:50

おばあちゃんはいつも元気いっぱいです。
バイトをかけもちでこなしながら、時間が少しでもあれば、昼であろうと夜であろうと繁華街へ繰り出します。
もちろんミニスカ姿をみんなに見せて、自分をアピールし、声をかけてもらうためです。
さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、という感じ。
といっても、ただのナンパが目的ではありません。
ばあちゃんと結ばれる運命にある、『永遠の彼』に出会うためなのです。
こんな派手な恰好をしていれば、多少は自分を見つけやすくなるのではないかと。

「ほんとに、そんな男の人がいるのかしらね?」
ときどき、からかい半分で、おばあちゃんにたずねます。
「いるいる。誰でも必ず一人はいるものなのよ。
赤い糸かどうかわからないけど、一対一でしっかり結ばれている。
その愛する相手を見つけるのが、人間の本当の生きる目的なのよ」
おばあちゃんは、この話をすると、いつも目がキラキラ輝きだします。

「昔の偉い哲学者も言っているけど、男と女はもともとは一つの体だったんだって。
頭が二つ、手と足が四本づつのね」
「うへっ。気持ちわるっ」
「そう思うでしょ? でも『人』という漢字は二人の人間が支え合っている図だというし、この文字を分けたら『1』と『1』になるわ」
「まあ、そうだね」
「とにかく、くっついていた人間を神様が男と女の二つに分けたの。だから、元の自分の体に戻ろうとして、この世にたった一人の相手である『永遠の彼』、『永遠の彼女』をお互いに探しているのよ」

「なんで人間は二つに分けられたの?」
「あまりにも完璧すぎたからさ。神様が人間の能力を嫉妬したのか、自分の地位が脅かされるんじゃないかと不安になったのかどうかしたのね」
「すると、相手が見つかったら、合体して一つの完璧な人間になるわけね」
「その説によればね」
「でも、手と足が四本ずつってタコみたいでイヤだな。なんだか歩きにくそうだし。
それに、そんな人、今まで見たことがないよ。おばあちゃんはどう思っているの?」
「私は、男と女はプラスとマイナスみたいなものだと思っている。
二人が出会ったら、化学反応みたいなものを起こして、一人が消滅しちゃう」
「消滅って、消えちゃうってこと?」
「そう、消えちゃうの」
「ばあちゃん、とってもシュールだねえ……」

「でも、もう片方の自分にいつ会えるかわからないんだよね」
と、私。
「そう。子供時代のときかもしれないし、あるいは私みたいに年をとってからかもしれない。
だから、しっかり意識して、いつもアンテナ張っていなければならないのよ」
「疲れるなあ」
「そんなことないわ。いつ現れるか、楽しみでしょうがない。
今日は会えるかな? それとも明日かなって。毎日がドキドキよ」
「そんなふうに思えるなら、いいなあ。ばあちゃん、幸せだねえ」
「でしょ? だから、あなたも私みたいに、ミニスカートをはきなさいっていつも言ってるじゃない。
で、心の中でこう叫ぶの。
私はここにいる! ここにいるわ!
愛しいあなた、どうか早く私を見つけてって」
「なんか、すごい世界だね」
「そう?」
「ロミオとジュリエットが、ホラー映画になったみたいな感じ。
バイトのパン屋のおじさんがヴァンパイアになって飛んできそう」
「それはホラー映画よりこわいわ……」

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