私の家は貧乏なので、小学生の双子の妹以外、家族全員が仕事、またはバイトをしています。
ミニスカばあちゃんも例外ではありません。
ばあちゃんのバイトは、朝は西町のパン屋さんです。
もちろん職場でもミニスカ姿。
これが意外と評判を呼んで、常連さんもついています。
しかし、会話がありえません。
その1 パチンコじいさん
「ハイサイ(こんにちは)」
と言いながら、70代のおじいちゃんが入ってきます。
「ナビーさんよ、あいかわらずスタイルー(かっこいい)だね」
ナビーというのは、おばあちゃんのニックネームです。ちなみに本名は、なみ子。
「ヨセヤマさんったら、アンダグチ(お世辞)いつもありがとう」
「ほんとよ。パンを買いにきたのか、お尻を見にきたのかいつもわからなくなるよ。ところで、今日のパンツは何色かな?」
「知りたいなら、パン二個買わなきゃだめよ。だってパンツーだもの」
「ほほほ。ウムサン(おもしろい)。それじゃ、ほらクリームパンもう一個」
「まいど。きょうは明るいスカイブルーよ」
「スイカかぶるー? スイカ、かぶってどうするね?」
「そうじゃなくて、青空みたいな色ってことよ」
「おお、想像しただけで気持ちが明るくなる。そのスイカカブルーは何番ね?」
「スカイブルーは、ラッキーナンバー8」
「ああ、8番台。末広がりで何となくいい感じ。おかげで今日もパチンコ勝てそうだよ」
「勝ったらお約束の2割バック。よ、ろ、し、く!」
その2 近所のくそガキとの会話
「ばあちゃん、パン5個買うから、おっぱいモミモミさせて」
と、近所の中学生の悪ガキ。
「バカだね。あんたなんか、百年早いよ」
「百年たったら、オレ、おじいちゃんになってとっくに死んじゃってるよ」
「死んだとき、またおいで」
「ばあちゃんは骨になっているじゃないか」
「おっぱいだけ取っておくさ」
「それはホラーだよ」
「ホラホラー、パン買ったらさっさと帰って、帰って」
「そのホラーじゃないって」
「土木工事で、ツルハシ振ってる人?」
「それは穴ホラー」
「あんたの仲間の頭の悪い連中?」
「それはアホラー」
……こんな具合に、ばあちゃんと悪ガキの漫才はいつまでも続くのです。
その3 貧乏小説家
「すみません、犬の餌にしたいので、パンの耳ください」
そういって店に入ってきたのは、夏だろうが冬だろうがいつも同じジャンパー姿の貧乏小説家です。
「また、あんたか。犬の餌って、あんたのとこのアパートでは犬飼えないんじゃないのか?」
パン屋の主人のアガリハマさんは、舌打ちしながらウンザリしたように言います。
「ベランダでこっそり飼ってます」
貧乏小説家は言い張ります。
「あのボロアパートにベランダなんかあるわけがないだろう!」
と断言するアガリハマさん。
「実は、階段の下に段ボールで小屋を作りました」
むきになる貧乏小説家。
「それは、家賃を払わず閉め出されたときの、お前さんの家だろうが」
アガリハマさんは一歩も引きません。
「ずいぶん詳しいですね」
「当たり前だ、オレが家主だからな」
「……」
思わず絶句する貧乏小説家。
「まあ、いいじゃない」
ばあちゃんが、二人を取りなします。
「あんたも、パンの耳、犬にあげるなんてウソつかないで、自分が食べるって正直に言えばいいのに」
「すみません、まだプライドがほんのちょっと残ってて、さすがにそれは言えませんでした」
「じゃ、ほんとに犬になれば? もう一度、犬として店に入ってくるシーンから、やり直し!」
「そこまでできません。もういいです。帰ります」
「はい、パンの耳」
「ワン、ワン」
「やってるし」