那覇から北谷(ちゃたん)まで遠出するときは、いつもシルバーパスを使ってバスを利用しているミニスカばあちゃん。
「こういうときだけ、老人になるのはズルイよね」
私がいうと、
「なに言ってるの。あたしがまだ年齢に追いついていないだけよ」
と意味不明なことを返します。
ところが、ある日とつぜん何を思ったのか、
「やっぱりバスはやめ。みんなにミニスカ姿を見てもらえないもの」
ということで、自転車を使うと言い出しました。
「おばあちゃん、自転車、危ないよ。北谷まで何時間かかると思っているの? それにこいでるときって下着とか見えてとっても下品だよ。バスでいいじゃない」
私が言うと、
「あたしは1分1秒、無駄にしたくないの。あなたと違って、残された時間、限られてんだからさ。こんな恰好で、必死になって自転車こいでればいろんな人が見てくれる。もしかしたら、私を探している本物の男が見ないとも限らないじゃないか。いいから、どんな乗り方がいいか、一緒に研究して」
というわけで、私が中学時代乗っていた古い自転車を物置から引っ張り出してきたおばあちゃん。練習をはじめたのはいいけれど、ミニスカ姿ではさすがに乗りづらそう。それに、何十年ぶりかの自転車なものだから、おっかなびっくりで、人間が乗っているというよりは、どこかの動物園のお猿さんが乗っているかのようです。
「おばあちゃんだったら、このままの格好でサーカスに出られるわね」
私はつい本音を口走ってしまいました。
すると、
「あら、そう?そんなにセクシー?サーカスってシルク・ド・ソレイユ?ジャパニーのミニスカ自転車乗りみたいな。そりゃいいかも」
「冗談だってば!」
おばあちゃんだったら本気でシルク・ド・ソレイユに売り込みをかけないので、私はあわてて否定しました。
いろいろ試してみた結果、牛革ブーツにミニスカ姿では立ち乗りが一番合理的でセクシーなことがわかりました。
おばあちゃんは昔の人の割には身長があるので、立ち乗りだとけっこう見栄えがします。
「よっし、みんな待っててよ。いま行くわよ」
と、おばあちゃんは意気揚々と自転車をこいで北谷の街へ向かいました。
私はほおっておくつもりでしたが、ちょっと心配になってバイクで後をつけました。
案の定、10分ほど走った泊交差点のあたりで、霊柩車に出くわしてびっくりしたのか、それとも無理な姿勢がたたって背筋でもつったのか、自転車ごとひっくり返ってしまったのです。
案山子のようにまっすぐに伸びきった体で、救急車に運ばれるミニスカばあちゃん。
「痛たたっ。こら、降ろしなさいったら。あたしゃ生きているよ。霊柩車はまだ早いってば」
動けなくなった体で、何を勘違いしたのか理不尽にも救急隊員を怒鳴り散らします。
私は他人のふりをして、おばあちゃんを取り巻く人垣の後ろのほうからこっそり見てました。
「ごめんね、おばあちゃん」
でも、救急車は呼んであげたのは私よ。